20才頃、太極拳の師である王氏は、よく私の働くサパークラブにやってきて、いつも、オレンジ100%のジュースしか飲まず、同行した女性達と、だれよりも楽しそうにホールで生バンドをバックに踊っていました。
20代に太極拳を教わったときに「私はお酒は飲まない。細胞がやめてくれと言っているし、飲んで忘れたい現実など一つも無い。脳細胞の一つでも麻痺させる必要は無い」と言っていたのですが、私は、「酒は百薬の長」という日本のことわざを言い訳に、20代はお酒を飲みまくっていました。
しかし、太極拳を続けていると、20代末のある日、お酒を飲んだときよりも、飲まないときの方が気分は良く、いくら飲んでも一切普段と変わらない状況になりました。酒代がもったいないというほどです。ただとても眠たくなりますから、飲んでもなんの得もありません。仲間との酒の席でも、私はお酒が欲しくないので、いつもウーロン茶を飲み、いつの間にか私だけしらふなのですが、最もよくしゃべり、いつも通り、弾けるようなテンションで楽しいので、誰もが、最も酒を飲んでいたのは私だと言われるほどでした。それからは、少しでも飲むと、眠たくなり、寝る方が楽しくなるので、一切お酒を飲まないようになりました。
そのことを、王氏に話すと、「お酒は、体の細胞だけでなく、血管や脳神経を蝕む、一滴も私は飲まないし、そして、現実を忘れるために飲むなら、現実を生きるために働く脳や、記憶を司る脳が、希望通り退化してくれる。陰陽とはそういうことだ」「お酒を飲まないなら、真心を言えないなら、お酒を飲むときしか真心を言えないようにしてくれる」「お酒を飲まないと楽しくないなら、お酒を飲まないときは楽しくないようにしてくれる」「全てのことは陰陽の性質があり、心のとおり、体も脳もそれに応えてくれる。お酒を飲んで細胞を殺したいなら、いつでも自分の心身が命を失ってくれる」「記憶を失いたいなら、早い時期に記憶を司る脳を退化させてくれる」「死にたいなら、いち早く死んでくれる」そう言っていました。このような話になるととても盛り上がり、太極拳の練習よりも話だけで終わってしまうこともあるほどで、この時の王氏との話しが、太極拳の養生理論と私の知っていた伝統医学の理論とぴったりと整合させることになったのです。
太極拳や太極理論は経験科学ですが、現在の科学はただそれを立証していくだけであるように感じるのは、私だけでしょうか。
これまでの常識として「少量の飲酒であれば身体に良い」とされてきたことは周知の事実ですが、最新の研究で「お酒は少量でも脳に悪影響が出る」という驚きの結果が出ました。今回のメルマガ『ドクター徳田安春の最新健康医学』では、この英オックスフォード大学で研究・発表された、飲酒による脳への悪影響について現役医師(総合診療医)の徳田先生が詳しく解説しています。